上顎癌の症状・原因・治療と手術・生存率。末期は2段階ある。
上顎癌について
- 症状
- 原因
- 治療
- 手術
- 生存率
を詳しくまとめてみました。
当ページは医療に精通したライターが分かりやすさを重点に執筆し、当サイトにて確認の上、公開しております。ただし確実性は保障しかねるため、あくまでも参考程度にご覧下さい。気になる症状がある場合は、まずは病院を受診しましょう。
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上顎癌とは?
上顎とは読んで字のごとく「うわあご」のことです。
※読みは “じょうがく” です。
上顎に癌ができるというのはイメージしにくいと思いますが、病理学的には
「上顎洞」から発生した “がん”
を「上顎がん」と呼んでいます。
上顎洞とは、副鼻腔のひとつ
顔には左右対称に計8つの「副鼻腔」と呼ばれる空洞があります。
@上顎洞(じょうがくどう)
⇒鼻の両側(頬付近)
A篩骨洞(しこつどう)
⇒目頭の内側
B前頭洞(ぜんとうどう)
⇒眉間から眉上
C蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)
⇒A篩骨洞のさらに奥深く
このうち、頬の部分にあたる「上顎洞」にできる癌を言います。
「がん」の種類としては、腫瘍化するタイプではなく、横に浸潤するように広がっていく
扁平(へんぺい)上皮がん
と呼ばれるタイプになります。
余談ですが、頸部(首)から頭部にかけてできる「がん」の中で、上顎がんと同じ扁平上皮がんに分類されるものとして、
があります。
また「上顎」という言葉から口腔外科の専門に思われる方もいらっしゃると思いますが、副鼻腔という部位は原則として「耳鼻科」の専門なので、治療を受けるのは耳鼻科になります。
ただし、上顎部から口腔内に浸潤または転移していったがんについては、口腔外科で診ることになります。
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上顎癌の症状は?
上顎洞は周囲を骨に囲まれているため、上顎洞内にとどまっているがんでは無症状のことが多く、早期発見は非常に難しいといえるでしょう。
しかし、がんが進行していくると以下のような症状があらわれます。
これらの症状は、
など症状が似ている病気が多いので、識別診断も難しい非常に厄介な癌だといえるでしょう。
では続いて
「上顎癌の原因」について説明しましょう。
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上顎癌の原因とは?
上顎がんの詳細な原因は不明とされています。
しかし近年、上顎洞がんの発症件数は減少しており、それに連動するように慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の発症件数も減少しています。
そのため、慢性副鼻腔炎との因果関係があるのではないかと考えられています。
ただし、がんの発生原因については解明されていないのが現状です。
上顎癌の診断方法は?
すでに説明のとおり、上顎癌は副鼻腔炎などの病気と症状が似ており、識別がしにくいと言われます。
上記のような症状がある場合、まずは耳鼻科ではスタンダードな
- 前鼻鏡検査:鼻腔に光を入れて中を観察する検査
- 顔面のレントゲン
が行われます。
鼻腔に目だった異常がない場合は鼻炎は否定され、副鼻腔炎などが疑われることになります。
また顔面のレントゲンの結果、上顎洞に強い炎症反応が見られた場合は
- 副鼻腔炎
- 慢性副鼻腔炎
- 上顎がん
などが疑われ、さらに以下のような検査が行われることになります。
@鼻腔ファイバースコープ
細い内視鏡を使い、「鼻腔〜副鼻腔の手前」にかけての状態を確認するための検査です。
万が一がんが鼻腔にまで浸潤してくると、この検査でも確認できますが、主な目的は鼻茸(ポリープ)の存在の有無確認です。
鼻茸がないのに上記のような症状が起こっている場合は、上顎がんの可能性が高まります。
A生検
「副鼻腔の手前」までであれば、鼻腔ファイバースコープに付着した組織を調べることで病理検査に回し、がん細胞の有無を調べることができます。
副鼻腔の奥の方に病変がある場合には、鼻内視鏡手術(副鼻腔にまで到達させることができる内視鏡)を使い、組織採取を行います。
※以前はこの時、生検目的で歯茎の切開手術を行う場合もありましたが、現在では内視鏡で行うのがスタンダードな方法です。
B頭部から胸部にかけてのCT検査
上顎がんは「上皮内がん」なので、通常のCTには写りにくいがんです。
しかし、副鼻腔周囲の骨の破壊や頸部リンパ節への転移、肺転移などがあればCTで判断がつきます。
このような状態はかなり進んだがんということになりますが、初期症状がほぼ無症状のため、自覚症状が出ている状態では必ず他の組織へとダメージや転移が起こっていないかを調べることになります。
C上半身のMRI検査
MRIは、磁気の共鳴を利用して “CTよりもさらに細かいがんの存在を確認できる検査” です。
しかしここでも上皮内がんは写りにくいため、炎症の有無や目、脳への転移や浸潤がないかどうかを細かく調べるために行われます。
DPET検査(核医学検査)
最新の画像診断方法であり、放射性粒子を使ってがんの有無を探ります。
CTやMRIでは発見が困難な小さながんや、組織の奥の方のがんまで見つけることができると言われています。
また遠隔転移の有無を判断する際にも用いられます。
ちなみに!
転移と浸潤との違いとは?
がんでは、他の臓器に影響を与えることを「転移」や「浸潤」と言いますが、この二つの言い回しにはどのような違いがあるのでしょうか?
- 転移:「遠い場所」あるいは「近接部位でも隣り合わせではない部位」へとがん細胞が飛び移ること
- 浸潤:隣り合わせた細胞伝いに広がるように進行していくこと
がんの説明の時には非常によく使われる言葉ですので、覚えておくと良いでしょう。
では続いて
「上顎癌のステージ」について説明しましょう。
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上顎がんのステージ
上顎洞がんには程度によって0〜IVCという7つのステージ(病期)に分類されています。
それではそれぞれのステージについて説明していきましょう。
0期
初期の段階であり、上顎洞粘膜の浅いところにのみがんが存在している状態。
自覚症状はほぼないため、この時点での発見は非常に困難とされています。
I期
がんが上顎洞粘膜内に止まっている状態であり、この段階でも自覚症状に乏しく発見は困難とされています。
II期
がんが上顎等周囲の骨に達した状態でありながらも、まだ上顎洞後壁や頭蓋底(頭蓋骨の底部)にまでは達していない状態です。
軽微な鼻出血や鼻づまり(鼻閉)などが見られる状態であり、初期発見の可能性があるとすればこの辺りからになります。
III期
後期のがんの状態です。
がんが
- 上顎洞後壁の骨
- 皮下組織
- 頭蓋底
- 篩骨洞(眼の内側に広がる副鼻腔)
- 眼窩(上顎洞の上の方にあり、眼球や視神経が集中している場所)
のいずれかに達している状態、
もしくは
上顎がんがある側のリンパ節に「3cm以下のがん」が転移しているのを一箇所確認でき、さらに
- 上顎洞
- 上顎洞周囲の骨
- 皮下組織
- 眼窩
- 頭蓋底
- 篩骨洞
のどれかに存在している場合を言います。
IVA期
後期のがんの状態です。
上顎がんのある側のリンパ節に3cm以上6cm以下のがんの転移を一箇所認められる状態
もしくは
反対側の頸部にリンパ節転移(6cm以下)を複数確認でき、さらに上顎洞、周囲の骨、皮下組織、眼窩、頭蓋底、篩骨洞のいずれかにがんが存在している状態
を言います。
IVB期
末期の状態です。
6cmを超える大きながんが頸部リンパ節転移を起こしている状態
もしくは
眼窩の後部、脳、反対側の頭蓋底中央、咽頭上部のいずれかに転移もしくは浸潤している状態
を言います。
IVC期
末期の状態です。
がんが他臓器転移を起こしている状態を言います。
では、万が一「上顎癌ですね・・・」と診断された場合、どのような治療をするのでしょうか。
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上顎癌の治療と手術
上顎がんの治療の第一選択肢は放射線治療であり、次いで手術による病変部の切除です。
また、
- 進行したがん
- 転移が複数箇所に見られる場合で、手術の適用が困難
の場合は、抗がん剤と放射線治療を組み合わせた「保存療法」が適用されることになります。
基本的に発見が多い上顎がん(ステージII)では、手術を前提としてその前に放射線治療を行います。
これは手術する範囲を小さくするのが目的となります。
そしてその後、放射線治療を続けることで、がん細胞を死滅させていきます。
それ以前の初期段階のがんでは、「放射線治療のみ」あるいは「手術+放射線治療」が行われます。
放射線治療とは?
手術の説明の前に、放射線治療について簡単に触れておきます。
放射線治療は高エネルギーX線を照射して、がん細胞を死滅させる治療法です。
比較的効果の高い治療法だと言われており、通常は一日30回から35回照射します。
ただし副作用の強い治療法なので、施術には慎重を要します。
抗がん剤治療(化学療法について)
抗がん剤でがん細胞を死滅させる治療法です。
抗がん剤の種類について簡単に説明します。
内服薬
副作用が比較的軽く、通院で治療が可能な抗がん剤です。
手術後の二次的治療で投与されることも多く、上顎がんの5年生存率を上げている治療法でもあります。
注射薬
静脈注射もしくは点滴で投与されます。
抗がん剤が全身に回るのが内服薬よりも早いため、手術が適用できない場合にはまずは点滴から化学療法を開始し、状態を見て内服へと移行するケースが多くなります。
経管栄養動脈(IVH)もしくは(超選択的)動注化学療法
IVHとは、全身状態が悪く口から栄養が取れない患者のために、鎖骨下動脈にルートを確保して高カロリー補液を投与する栄養法です。
このルートを使って他の注射薬や抗がん剤を流すケースがあります。
また(超選択的)動脈注化学療法とは、がんに栄養を提供している動脈から大量の抗がん剤を流し、がん細胞を死滅させるやり方です。
通常は鼠蹊部(股の付け根)の動脈からカテーテルを挿入し、直接目的の部位までカテーテルを通し、そこから抗がん剤を流します。
重症例の患者に対して行われる治療法で、複数の抗がん剤を使用するカクテル療法が行われる場合もあります。
このように「抗がん剤治療」と言っても、何種類かの方法があります。
手術が適用できないような重症例には
抗がん剤+放射線の化学療法
または
抗がん剤単独の化学療法
が行われます。
上顎がんで行われる手術の種類
上顎がんでは、状態に合わせて以下のような手術が適用されます。
上顎部分切除
上顎洞の一部をがんと一緒に切除します。
この時リンパ節転移があれば、リンパ節廓清術が行われます。
※リンパ節廓清術とは、リンパ節に転移したがんを取り除くため、広くリンパ節を切除する手術です。
上顎洞全摘術
上顎洞全体をがんと一緒に切除します。(ただし眼球は残します)
かなり広範囲に広がったがんに対して行われます。
この時はリンパ節廓清術も必ず行われます。
拡大上顎洞全摘術
上顎洞全体切除と眼球の摘出が行われます。
リンパ節廓清術も行われます。
ステージ別治療法について
進行度合いにより選択される治療法が異なりますが、ガイドラインでは下記のような治療法が第一選択肢になると規定されています。
0期の場合
積極的な治療は行わない、もしくは内服の抗がん剤のみの化学療法での治療
(自覚症状もないため通常このステージでの発見はごく稀です)
I期の場合
放射線治療+手術
II期の場合
手術前後に放射線治療+術後の継続的な放射線治療
III期の場合
手術+放射線治療+抗がん剤治療(三者併用療法)
IV期の場合
抗がん剤治療+放射線療法、稀に手術(IVA期などでは手術が行われる場合があります)
では最後に
「上顎癌の生存率」について説明します。
上顎癌の生存率について
上顎がん全体の5年生存率は平均で50〜70%と言われており、決して低くはありません。
これは初期の段階での発見が難しくても、骨にできるがんの場合、骨組織が硬いので、内部への浸潤に時間がかかり、放射線治療の治療効果が比較的高いためだと言われています。
(各ステージでの5年生存率:I期〜)
I期
70〜90%
II期
60〜70%
III期
50〜70%
IV期
30〜50%
となります。
さいごに
以上のとおり、上顎癌の生存率は決して低くありませんし、近年は患者数も減っているとされています。
原因自体は明確になってないとは言え、蓄膿症(副鼻腔炎)との関わりも指摘されているため、鼻や頬に違和感を感じたらなるべく早めに病院を受診するようにしてください。
なお、冒頭にも記載のとおり、記事はなるべく正確に執筆しておりますが、筆者は医者ではありませんので、あくまでも参考程度にご覧ください。
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